機能性ディスペプシアについて


機能性ディスペプシアとは

機能性胃腸症という病名はつい最近まで消化器専門医以外の方にはあまり知られてない病名でした。 機能性胃腸症とは簡単にいえば、検査では器質的異常を認めないにもかかわらず胃腸症状がある疾患です。機能性胃腸症のなかでも胃痛、胃もたれ、胸やけなど上腹部症状があるものが機能性ディスペプシアと言われます。


機能性ディスペプシアの歴史

この疾患は決して新しい疾患ではなく、以前から胃アトニー、慢性胃炎、神経性胃炎、症候性胃炎などとよばれてきた病名は類似疾患と考えられます。最近の医学に進歩により、慢性胃炎という組織的変化のほとんどがヘリコバクタピロリ菌感染に由来する事が常識となりました。ピロリ菌感染のある胃には多かれ少なかれ必ず組織学的な慢性胃炎があります。しかしピロリ菌感染があっても、ほとんどの人に胃部症状はありません。逆にピロリ感染がない人にも胃痛や胃もたれを訴える人があります。要するに組織学的な慢性胃炎とこれらの上腹部症状との関連はうすいということが分かったわけです。これまでこういった症状を訴えても、検査で異常を認めないと「異常ありません。」「神経症でしょう。」「慢性胃炎の症状ですね胃粘膜保護剤で様子みてください。」などといわれ正しい治療が行われてきませんでした。しかし、機能性胃腸症・機能性ディスペプシアは急速な社会構造の変化に伴い、過剰なストレスにさらされている日本人にありふれた現代病となりようやく脚光を浴びてきました


機能性ディスペプシアの機序と分類

機能性胃腸症については欧米のほうが日本より研究が進んでいます。まだ機能性胃腸症の機序は完全には解明されていません。食後の胃拡張不全、胃の知覚過敏、胃内容物の排出異常、酸感受性の亢進などが考えられています。機能性胃腸症の定義はローマ委員会というところで発表されているものが世界でもっとも信頼されています。現在はRome Vという定義が最新のものです。それによると機能性ディスペプシアは食後膨満感を主とする「食後不定愁訴症候群」、上腹部痛を主とする「心窩部痛症候群」に大別されています


機能性ディスペプシアの診断と治療

診断についてはまずは上腹部の検査(腹部エコー検査や胃カメラなど)を行って潰瘍や癌などの器質的疾患を否定することが第一歩です。その上で治療が行われます。器質的疾患を否定するだけで胃癌の心配から解放されて症状が改善する患者さんもあります。

治療薬剤は食後不定愁訴症候群では消化管運動調節剤や酸分泌抑制剤などが、心窩部痛症候群では酸分泌抑制剤などが主体となります。またストレスの要因が大きい場合は安定剤が効果的なこともあります。食後不定愁訴症候群では最近アコチアミド(商品名:アコファイド)という薬剤がこれまでの薬剤より有効率が高いと言われています。この薬剤は検査で器質的疾患を否定しないと処方できません。

しかし薬剤だけに頼るのでなく発症要因の排除も大切であり、生活習慣の是正が大切です過食、過飲、早食い、不規則な生活、喫煙などを避け、胃に負担をかける油物・甘い物・香辛料の強い食物・コーヒー・アルコールなどをひかえることが大切です。またストレスが過剰にならないように十分な睡眠や運動をすることなども治療に良い効果をもたらします